心不全について
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心不全とは?
日本循環器学会と日本心不全学会は
『心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です。』と定義しました。
私たちの身体は血液が常によどみなく循環することで元気に過ごすことができます。
心臓は血液を循環させるポンプの役割を担っていますが、働きが落ちると全身に十分な血液が供給されず、
全身の臓器にうっ血と栄養不足が起こり、機能障害を起こします。
余計な水分が体の外に排出されずに貯まっていくため、急速に体重が増えて息切れやむくみが出現します。
日本では心不全患者さんは年々増えており、予後についても5年生存率が癌より悪いのですが、
これらのことが皆さんに正しく理解されているとは言い難い状況です。
心不全の治療は薬による治療が中心となりますが、治療薬は進歩してきており、
きちんと治療管理を行うことで日常生活を問題なく過ごすことができる病気でもあります。
早く見つけて早く治療介入することがとても大切です。
1.心不全の原因
心不全の原因は様々です。
心臓は常に仕事をしていますが、処理できる限界以上の負担がかかると心不全を発症します。
何かしらの原因で心臓が障害を受け弱っていると、わずかな負担(風邪をひいて熱が出た、塩分の多い食事をしたなど)でも
心不全を発症します。
高血圧症、糖尿病、高脂血症といった病気は冠動脈疾患だけでなく心不全を発症するリスクにもなります。
これらのリスクはあっても症状がないことも多いですが、放置しておくと心不全を発症します。
心不全の原因となる心疾患は心筋梗塞や心筋症、心筋炎、弁膜症、肺高血圧症など様々な原因がありますが、
ここでは主に薬物治療の対象となる心筋症について解説します。
2.心筋症とは?
心筋症の分類 具体的な病名 拡張型心筋症 特発性拡張型心筋症、心サルコイドーシス、癌治療関連心筋症
肥大型心筋症 特発性肥大型心筋症、心アミロイドーシス、心ファブリー病、ミトコンドリア病
その他の心筋症 拘束型心筋症、不整脈原性右室心筋症、他
上段:拡張型心筋症の心エコー図 下段:肥大型心筋症の心エコー図(自験例)
心筋症を簡単に分類すると心臓の形態によってまず拡張型心筋症タイプか肥大型心筋症タイプかに大きく分類されます。
拡張型心筋症では左室収縮能が低下し、左室内腔が大きく拡張して左室壁が薄く引き伸ばされたように見えるのが特徴です。
一方、肥大型心筋症では左室壁が厚くなり(肥大し)、左室内腔は拡大せずむしろ狭くなります。
左室収縮能は保たれますが、拡張機能が低下し心不全をきたします。
心筋症には全身疾患に合併する二次性心筋症と心筋症の原因となる全身疾患がない特発性心筋症があります。
二次性心筋症では、心不全治療だけでなく全身疾患の治療も必要になることがあるため、鑑別診断が重要となります。
近年、心アミロイドーシスや心ファブリー病は新規治療薬の開発により治療成績向上が見込めるようになったため、
診断の必要性が増しています。
また心筋症の一部は遺伝子異常を背景に発症することが分かっており、血縁の家族内に多数心筋症を発症するケースもあります。
そのような場合、家系図調査と遺伝子検査が早期診断につながる可能性があります。
3.心不全を疑う症状
ほとんどの心不全患者さんに生じるのが息切れで、走ったり、坂や階段を上ったりした時に特に顕著に自覚します。
ひどくなって肺にむくみがでると、安静時も息苦しくなり咳や痰が出て夜間仰向けで寝ることができなくなります。
全身に余計な水分が蓄積し、顔や足がむくむようになったり、体重が急激に増加したりします。
全身の循環が悪くなるため、疲れやすいと感じることが多くなります。
また、脈拍の異常により動悸を感じることもしばしばです。
4.心不全を疑った時に行う検査
- 採血、胸部X線写真、心電図 心不全の診断と病状の評価を行うために必要な基本的検査です。入院が必要な緊急性の高い病態かどうか、判断する材料にもなります。
- 心エコー図法 心臓の形態や機能を評価し、弁膜症の有無を調べることができる検査です。
- ホルター心電図 携帯式心電計を装着して長時間脈拍を記録することで、不整脈の検出や心拍数の変動を記録する目的で試行します。
- 心臓CT、心臓MRI 冠動脈疾患の有無を評価するだけでなく、心臓の形態や心筋障害を評価することができる画像検査です。
- 核医学検査(心筋シンチグラフィー/FDG-PET) 放射性元素を標識とした薬剤を注射し、心臓への取り込みを観察することで、心筋障害の程度や心臓の炎症を評価することができます。
- 心臓カテーテル検査?心筋生検 心臓内にカテーテルを挿入し、心臓の内圧を測定したり、心拍出量を測定したりすることで心臓の働きを調べます。
- 生活?食事管理 心不全患者さんでは過度の水分、塩分摂取は心臓への負担を増加させ、
- 薬物治療 心不全患者さんでは心臓からの血液の拍出が減少し、全身への血液の供給が不足するため、
- 不整脈の管理 心不全では心不全の増悪以外にも持続性心室頻拍や心室細動といった致死性不整脈による突然死のリスクがあり、
- 心臓リハビリテーション希望の場合 他院に通院されている方:循環器初診外来(木曜:宇賀田担当)へ受診ください(完全予約制でかかりつけ医の紹介状が必要です)。
心不全の原因検索や分類を行うための基本的な検査になります。
造影剤を用いた検査では心筋症の鑑別診断や重症度評価を行うことができます。
心不全の重症度や予後予測にも用いられています。またFDG-PET検査は心サルコイドーシスの診断や活動性評価に有用です。
心筋生検では心臓の筋肉をほんのわずかに採取し、顕微鏡で観察することで心不全の原因診断を行います。
5.心不全の治療
心不全は一度発症すると完治は難しく、基本的には一生涯にわたって治療を継続する必要がある慢性疾患です。
そのため高血圧、糖尿病や動脈硬化性疾患などのリスクを管理し、心不全発症を予防できれば最もよいのですが、
一度心不全を発症した場合にはそれらのリスクをより厳格に管理する必要があります。
心不全は治療により症状が緩和しても、
急激な悪化を繰り返すリスクが高く、悪化を繰り返す毎に身体機能が低下し、寝たきりや死亡につながるからです。
従って、心不全治療の基本とは生活食事管理や薬物治療によって心臓への負担を軽減し、再増悪を起こさないことです。
摂取した水分がむくみとして体内に蓄積し、心不全の増悪を招きます。
そのため、日常生活で水分摂取量と塩分摂取量を制限する必要があります。
また心不全が増悪し不安定な状況では、仕事や家事による身体的な負担により状態がさらに悪化し破綻しかねません。
致命的となり得る状況であり、就労制限や自宅での安静休養を要することもしばしばです。
高血圧症、糖尿病、高脂血症などのリスク管理も重要となるため、当院では栄養士や心不全療養指導士など
多職種が連携して対応することで、心不全患者さんが日常生活をスムーズに送れるようサポートしています。
血圧や心拍数を上げて何とか心臓の働きを保とうとする代償変化が現れます。
生体内の多数のホルモンや神経調節性因子が関与していますが、
これらの代償変化は長期的には心臓の機能を損ねて心不全の予後を悪化させることが分かっています。
心不全薬物治療の目的はこれの代償変化を調整し、長期的に安定した状態を維持することです。
β遮断薬、レニンアンジオテンシンアルドステロン系阻害薬、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬、
SGLT2阻害薬、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬などの薬剤は心不全の長期予後を改善することが証明された薬剤であり、
これらの基本薬を軸として、心不全の様々な病状を改善する薬剤(利尿薬、強心薬、貧血改善薬、抗不整脈薬など)を
必要に応じて追加します。
長期生存のためには不整脈の管理が非常に重要です。
心不全薬物治療により安定した状態を保つことで致死性不整脈のリスクも軽減することができますが、
心機能が高度に低下した重症例では致死性不整脈のリスクも上昇します。
非致死性不整脈であっても頻脈性不整脈、徐脈性不整脈のどちらも心不全増悪の要因となるため、適切に管理することが必要となります。
致死性不整脈のリスクが高い患者さんに対しては植込み型除細動器(ICD)の植込みを行ったり、
カテーテル治療でリスクを減ずることを行います。
CRT治療について
CRTとは?
CRTはCardiac Resynchronization Therapy(心臓再同期療法)の略で、両心室ペーシングともいわれます。
重症な心不全では左脚ブロックなどの伝導障害(脈が伝わるための心臓内の導線が切れている、または異常がある)を
合併している場合があります。
伝導障害があると脈のねじれがおこり、心臓のポンプとしての動きが損なわれるため血液を全身へ駆出する機能が弱ってしまいます。
そこで、通常の右心室内のリードに加え、
心臓の後ろ側の血管(冠静脈)へリードを留置し心臓の動きを調節することで心臓の機能を高めます。
ICD(AEDのような不整脈に対する電気ショック機能のある植込みデバイス)の機能を併せ持ったCRTDというデバイスもあります。
手術は局所麻酔、2~3時間程度で終わります。手術後1時間で歩行ができます。入院期間は病状によりますが約5-7日間です。
心臓リハビリテーションについて
心臓病の方が、日常生活や仕事が制限なく行えるよう社会復帰をサポートし、
心臓病の悪化?再発予防を目的として心臓リハビリテーションが行われます。
患者さんは医師の運動処方を受けて、心機能や体力に合わせた運動プログラムを実施します。
エルゴメーターによる運動や、ストレッチ?レジスタンストレーニング(軽い筋トレ)などを行います。
運動処方は、心肺運動負荷試験(心肺機能の体力測定)の結果により決めます。
患者さんひとりひとりに、心臓に負荷のかからない運動の強さや方法をアドバイスしています。
当センターには心臓リハビリテーション指導士の資格をもつ専属スタッフが
11名(医師、理学療法士、作業療法士:2024年1月時点)在籍しており、多職種で協力しています。
内科?外科問わず患者さんを受け入れ可能です。
また、入院中からリハビリを開始し、退院後も切れ目なく通院リハビリを行いサポートしています。
近隣の医療機関に通院されている方でも、心臓リハビリテーションの保険適応【心大血管リハビリテーション(I) 】があって、
外来通院が可能な患者さんであれば心臓リハビリテーションのみの通院が可能ですので是非ご相談ください。
当院に通院されている方:主治医へご相談ください。
重症心不全に対する治療(左室補助人工心臓(LVAD)治療?心臓移植)
最大限の薬物治療?非薬物治療を行っていても心不全症状が改善せず、容易に増悪を繰り返す状態を重症心不全と呼びます。
重症心不全では、強心薬の持続点滴が生命維持のために必要となりますが、
減量すると心不全が悪化してしまい離脱困難となることもしばしばです。
そのような状況では心臓移植の適応を考慮する必要があります。
本邦では全国11か所の心臓移植実施施設があり、当院で治療中の心不全患者さんで心臓移植が必要となった場合には、
近隣の心臓移植実施施設と連携して心臓移植の適応取得を目指します。
日本では心臓移植を必要とする患者さんに対して脳死ドナーの数が不足しており、心臓移植までの待機期間が平均5年と長期化しております。
そのため心臓移植待機患者のほとんどは植込型LVADを装着して在宅での治療を行っています。