末梢動脈疾患(閉塞性動脈硬化症など)
閉塞性動脈硬化症とは、動脈硬化などの原因により、動脈の内腔が狭くなり循環障害をきたした状態です。その発生には、喫煙が強く関与しています。動脈硬化が原因の場合には、下肢だけでなく脳?頸動脈?心臓周囲の動脈(冠動脈)などにも生じ、それらの臓器の循環障害も併せて生じることも多いことから、「全身の動脈硬化の一部分症」と考える必要があります。
循環障害のため、下肢の血圧が上肢の血圧に比べて低下しています。上腕と足での血圧比(ABI=足での血圧測定値/上腕での血圧測定値)で、下肢の循環障害の有無をまず判断します。1.0が正常、0.9未満が異常で、重症例では0.5以下のことが多いとされています。
この疾患は慢性的な経過をとることが多いため、下記の臨床症状分類が病気の進行度をみる指標の1つになります。治療が必要になるのは、Ⅱ度以上と言われており、軽度の間歇性跛行のみの場合、薬物治療で経過観察することが多く、中等度以上の場合、血行再建療法(手術、血管内治療)が必要になります。また、Ⅲ度、Ⅳ度は「重症虚血肢」と呼ばれ、放置すると切断を余儀なくされる状態であり、なるべく早い段階での血行再建術が必要となります。
Ⅰ度???無症状(冷感,しびれ)
Ⅱ度???間歇性跛行(歩行中に下肢痛が出現し休憩を要する)
Ⅲ度???安静時疼痛:重症虚血肢
Ⅳ度???壊疽,下肢の潰瘍形成:重症虚血肢
閉塞性動脈硬化症の治療法
(1)薬物療法
血管拡張薬や抗血小板剤、抗凝固剤といった製剤が使用され、早期の場合には、薬物療法のみでも症状の改善が期待されます。中等度以上の間歇性跛行を呈する場合には、薬物療法のみでは不十分であり、病気の進行を遅らすことしかできません。なお、喫煙は動脈硬化を進行させる大きな要因のひとつであり、禁煙は非常に重要です。
(2)血行再建療法
閉塞性動脈硬化症では、図のように動脈の様々な部位が狭窄?閉塞します。病変の部位や長さ、性状などに応じて、血管内治療やバイパス手術で最も適切な治療を選択します。
①血管内治療(経皮的血管形成術、インターベンション)
血管内治療は、先端に小さく折りたたまれたバルーンを装着したカテーテルを用いて、狭窄または閉塞してしまった血管を拡張させることにより、血液の流れを確保、再開させる手技です。通常、バルーンを膨らませ血管を拡張することで血流が確保されます。この治療ではバルーンカテーテルに加えてステント(金属製のチューブ)を留置することもあります。血管内治療は、メスを使わずに治す治療法であり、術後の痛みや体に対する侵襲も少ないという利点がありますが、適応は動脈の狭窄部位やその長さより制限されます。一般に病変部が腸骨動脈、大腿動脈領域で、狭窄部位が短い場合には、血管内治療の適応となることが多いのですが、病変部が長く連続している場合や、多発している場合には、血管内治療が難しいこともあります。
②血行再建手術(バイパス手術)
狭窄?閉塞部位を迂回するように新たな血液の通り道(バイパス)を作る手術です。バイパスする部位に応じて人工血管や自己の血管(大伏在静脈など)を使用します。鼠径部より中枢の腸骨動脈領域や、大腿動脈領域から下腿?足部の病変まで幅広く対応することが可能です。重症虚血肢では、傷を治癒させ切断を回避するためには、血行再建が必須です。血管内治療は低侵襲かつ繰り返し行えるという利点がある一方、バイパス手術は長期開存が望めることと、広範囲の組織欠損(切断後の状態など)に対してはより効果があるという利点があります。当院では重症虚血肢の方に対して、手術が可能な全身状態であれば積極的にバイパス手術を選択しています。またバイパス手術後の創傷治療は近隣病院の形成外科と連携し治療を継続します。
治療対象疾患
その他にも当院では、下肢静脈瘤に対するレーザー治療や、透析用シャント手術にも対応しています。下記に末梢血管外科領域の対象疾患を表示します。
末梢血管外科領域
●腹部大動脈疾患:腹部大動脈瘤?外傷性腹部大動脈損傷など
●末梢動脈疾患:閉塞性動脈硬化症?バージャー病?末梢動脈瘤?動脈瘤?急性動脈閉塞など
●静脈疾患:下肢静脈瘤
●透析関連:新規ブラッドアクセス作成?アクセストラブル関連(閉塞、感染など)
●その他:下腿浮腫?リンパ浮腫など
血管外科部門の治療実績
心臓?胸部/腹部大動脈領域?静脈疾患?透析シャント手術を除いた当科末梢血管外科部門の治療実績を下記に示します。手術術式に関しては、外科的血行再建術(バイパス手術)を中心に実施しており、大腿動脈‐膝窩動脈バイパス手術(膝関節上/膝関節下)のみならず、ふくらはぎの足関節に近い部位や、足関節以下の部分の細い動脈を標的として血行再建を行うDistal bypass手術も積極的に行っています。治療対象となる患者様の中には、前記重症度分類でIII度?IV度の重症虚血肢の方も多く含まれており、多くの患者様が、外科的血行再建術により、下肢切断への進行の予防、切断範囲の縮小化といった効果が得られています。
今後も近隣の循環器科?透析科?形成外科の先生と連携して、埼玉県在住の皆様方の健康で快適な生活の維持に貢献していきたいと考えておりますので、セカンドオピニオンを含めて、当科外来受診を希望される方はご連絡ください。
連絡先
心臓血管外科外来は毎日行っていますので、お時間に余裕があれば下記予約コールセンターまでご連絡ください。
お急ぎの場合は、心臓血管外科担当医師と直接相談いただければと思います。